ロードバイクのフレーム素材は今は「フルカーボン」が主流となっており、これに取って代わるような新素材はなかなかこの先も出てこなそうです。カーボンは軽量でありながら金属素材よりも(場合によっては)高強度で、腐食や経年劣化に強く、振動吸収性があったり、自由な形が作りやすい夢の素材です。航空機などに採用されてるのもみなさんご存知だと思います。
ところで、「カーボン」というのは「炭素」のことであり、「カーボンファイバー」とはアクリル繊維を高温で炭化させた炭素繊維(PAN)のことです。自転車のフレームに使われているのはこの炭素繊維を樹脂で固めて強化した「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」です。なんだプラスチックじゃん、と言うのも実は違っていて、いわゆる複合素材なのであくまで「炭素繊維+プラスチック」。「チョコバナナ」を「チョコレートでしょ」って言ってるようなもんでしょうか。
CFRPの製造方法はいろいろありますが、自転車のフレームの場合は、炭素繊維をシート状にしてエポキシ樹脂を染み込ませたもの(プリプレグ)を重ね合わせて型にはめ、熱や圧力をかけて成型する方法が多いです。いわゆる「モノコックフレーム」はこの方法でつくられます。
このCFRPを一般的に「カーボン」と呼ぶことが多いのですが、ひとくちに「カーボン」と言っても素材としての性質は単一ではありません。プリプレグの原料となるカーボンファイバーにもさまざまな種類がありますし、プリプレグを重ねる時の繊維の方向や重ねる厚みでも特性は随分と変わってきます。
カーボンのグレードは主に炭素繊維の「弾性率」で区別されます。「弾性」という文字から「弾む性質」みたいに、高弾性だとビヨンビヨン跳ねるのかと思ってしまいがちですが、ここで言う弾性率とは力を加えた時の素材の変形のしにくさであり、カーボンはもともと繊維なので引張りに対する変形率(ヤング率)で数字が大きければ変形しにくいということです(若者の比率は関係ありません)。
いわゆる「高弾性カーボン」や「ハイモジュラスカーボン」と呼ばれるものは弾性率の高い素材を使用しているので、剛性が高いといえます。弾性率が高ければ強度があるかというとそうではなく、ある一定以上の弾性率を超えると引張り強度も落ちます。そこで弾性率が低くても強度の高いカーボンもバランスよく配置する必要があります。適材適所が重要です。
こうして作られるカーボンフレームは入門モデルからプロ用に供給されるものまでピンキリです。ハイグレードなものほど、より高価な高弾性カーボンがふんだんに使われ、より緻密な強度計算と丁寧な手作業による工程を経るためコストがかかります。
10万円のフレームと100万円のフレームでは性能の差はもちろんありますが、10倍速く走れるわけでもなく、10倍長持ちするわけでもありません(高価なものほど取扱いがデリケートだったりします)。しかし、製品開発におけるメーカーの熱意や、憧れのフレームを所有することの悦び、周囲の熱い視線は10倍以上でしょう。
いつかは手に入れたい憧れのフレームを夢見ることも、ロードバイクの楽しみ方の一つかもしれません。
text■塚田
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